説明した内容を生徒の皆さんがどれほど理解しているかを確認するにあたって最も確実なのは、生徒の返事です。完全に理解したときは力強く短い返事があり、自信がないときやわからなかったときは返事までに時間がかかったり声が弱々しかったり、時には全く声が出ないこともあります。
どちらにしても反応がありますから、すぐに次の対応につなげることができますが、恥ずかしかったりどう答えて良いかわからないときは返事がなかなか出てきません。
このように、音声による発言は、その有無や程度によって状況を把握しやすいものですが、感情豊かな動物である人間には、声にはならないまでも次のような立派な“発言"があります。
◎点数発言 状況が点数にあらわれる
◎答案発言 状況が答案にあらわれる
◎表情発言 状況が表情にあらわれる
◎動作発言 状況が動作にあらわれる
◎座席発言 状況が座席にあらわれる
一つずつ簡単に説明します。
◎人間は感情の生き物ですから、同じ練習問題に取り組んでいても、日によって、あるいは時間によって点数は大きく変動します。とくに技術的にも精神的にも不安定な発達途上にある場合、集中力の強弱がストレートに点数に表れます。
◎答案には、間違いの種類だけでなく、問題に取り組んでいたときの精神状況が如実にあらわれています。数字の丁寧さ、訂正の頻度、訂正の仕方を守る意識、問題用紙の傷み具合などから明らかになります。毎日毎時間、初歩教材はもちろんのこと、全員に答案の提出を義務づけて全枚数をチェックしているのは答案発言を確認することも目的になっています。
◎子どもたちは実に表情豊かです。自信があるときは視線をそらすことはありません。目の中には確固とした意思が宿っています。逆に、視線をそらしたり表情がこわばることで、言葉以上に感情を訴えてくることもあります。
◎答を写したり、「やめ」の合図の後に答えを書いたりしている生徒は、ほぼ百%と断言してもいいほど、私と視線が合います。よからぬことをしている生徒の視線は問題に向かず、スタッフがどこにいるかをそれこそ全身で感じ取ろうとしています。バレていないと思っている姿はなんとも滑稽で、ひときわ目立っているものです。わざわざ遠回りをして採点の列に並んだり、何かを落としてゆっくり拾ってみたり、特に用もないのにトイレにこもってみたりと、動作からたくさん読み取ることができます。
◎前から詰めて座るように、隣に必ず他の生徒がいる席に座るように義務づけていますが、それでもなお後ろのほうに座る生徒がいます。目が届かないと思っているのかもしれませんが、逆にとても目立ちますので私の視線はそちらに集中します。
私たちの仕事は、そろばんを使った計算技術の方法を伝え、珠算式暗算力を鍛え、技術を習得していくなかで生徒の皆さんが伸び方を習得し、あらゆる能力を高める過程に寄り添うことですが、そのために必要な基本的で最も重要な要素は観察と想像・創造だと思っています。
生徒の様々な発言を観察した結果から状況を想像し、個々に応じた教材や指導を創造する日々は驚きと発見の連続で、おちおち老け込んでいる間がないのはありがたいことです。