◎そろばんの練習は、突き詰めていえば珠を決まりに従って正しく速く弾く練習です。
また、架空のそろばんをあたかも実物のそろばんを弾くようにして想像するのが珠算式暗算で、練習を重ねていくうちに、頭の中のそろばんの桁幅は増え、正確性も高まります。
さらに、上達するにつれて架空のそろばんを弾く指先の微妙な動きすら不要になります。そうすると答えを書いている間に次の問題も珠算式暗算で計算することができるようになってきます。想像を超える速さで計算する有段者の暗算力は、このように頭の中で自由にそろばんの珠を想像できることによって成り立っています。
そろばんの練習は、脳に直接良い影響を与えるだけでなく、精神面の強化にもつながっていきます。必要のない珠に触れることなく、いかにリズミカルに最小限で指先を動かすのかを突き詰める作業は、高度な集中力と忍耐力を育みます。
いい加減な気持ちで練習に取り組むと、できていたことができなくなり、点数は大幅に下がります。力を取り戻すまでに本来なら必要でなかったはずの時間と労力を費やしてしまうことを知ります。無駄なことをしてしまったという後悔が残ると、せめてもの救いになるでしょうか。
このように、真剣に取り組んだからこそ感じることのできるうれしさや悔しさ、楽しみや悲しみをめまぐるしく日常的に経験し、おだてられることと褒められることの違いを知り、精神的なたくましさを身につけて生徒たちは成長していきます。
◎自己肯定感と自己効力感という二つの概念があります。
できてもできなくてもありのままの自分を認める「自己肯定感」と、実際に取り組んだ経験から得られた充足感や満足感からつむぎ出される「がんばったらできそう・やれそう・うまくいきそう」という「自己効力感」。この二つの概念は似ているようで少し違います。
国際比較などでニュースになることもある「自己肯定感」に比べて、「自己効力感」はあまりなじみのない言葉ですが、自己効力感が高いと次のような利点があるといわれています。
①チャレンジ精神の向上:困難な課題や未経験の業務にも積極的に取り組むことができる。
②打たれ強さ:失敗や挫折をしても、すぐに立ち直り、前向きに次にどうすれば成功するかを考えることができる。
③モチベーションの維持:自分の能力を向上させる目標を高く掲げ、モチベーションを維持することができる。
自己効力感を高めるために有効だといわれている主な方法は以下の通りです。
①成功体験を積む:目標を達成した経験を積み重ねることで、「自分ならできる」という自信が強まる。特に、時間や労力をかけて達成した経験は、自己効力感の向上に大きく貢献する。
②他者に学ぶ:他者が目標を達成する様子を観察し、「自分にもできそうだ」と感じることで、自己効力感が高まる。身近な人の成功体験から学ぶことが効果的。
③言葉がけ:他者から「あなたにはできる」といったポジティブな言葉をかけられたり、自分自身に「できる」と言い聞かせたりすることで、自己効力感が高まる。
④健全な心身を保つ:心身ともに健康な状態を保ち、ポジティブな感情(ワクワク感など)を経験することで、行動への意欲が高まり、自己効力感につながる。
インターネットで調べて得られた定説と言われている情報をいくつか書き並べました。
これらの概念は心理学や教育界で学問として成り立っていますからまだまだ奥が深く幅も広いものだと思いますが、全く学問的ではなくとも我々が通ってきた道から自己効力感の効果や効力感を高める方法は体験的に知っている部分が多くあるのではないでしょうか。
子育てをはじめとする教育のあらゆる人為的な取り組みは、意識する・しないに関係なく、すべからく『自己効力感の強化』を目指して行われています。
そろばん学習においても無論例外はなく、教室内外、関わりのあるとき・ところすべてで自己効力感を高める意識をもって生徒たちに接しています。
習い事としての歴史が長いそろばん学習では、検定試験や競技会など、自己肯定感や自己効力感を高める「制度的な保障」が生徒の年齢・技術到達レベルに応じて豊富に準備されています。また日常の練習においても教室では多くのスモールステップを準備してきており、今現在においても新たなステップを次々と追加しています。
毎時間、全員の得点を記録し、全員の答案に目を通すのは、生徒の皆さんの自己効力感を高める材料探しをしていることも目的になっています。
生徒の皆さんは日々目の前の課題に真剣に取り組んで、『人格形成の栄養素』をたくさん蓄えていってください。