塾長ブログ

2025年06月

2025.06.25

あっそうか体験(塾報6月号より)

 何かを身につけるためには知識と経験が不可欠です。

 知識は本を読んだりネットで検索したり、誰かから教えられて得られます。
 経験は自分自身で訓練や練習を積み重ねることで得られます。
 どちらかが欠けていては何も身につけることはできません。フィギュアスケートの4回転ジャンプとは跳び上がって着氷をするまでに4回転することという知識はあってもただ知っているというだけで実際にできるはずもなく、4回転ジャンプがどういうものか何もわからないまま4回転の練習ができるわけもありません。
 そろばん学習で説明してみましょう。
 習い始めてすぐに取り組む初歩教材『PERFECT』では、「教えてもらいましょう」と記載されているところがいくつも出てきます。この記載は新出事項や注意すべき箇所にあり、「正しい知識」を習得すべき事柄を表しています。生徒の皆さんはここで正しいやり方を学びます。
 続いて指示が書かれていない問題に取り組みます。
 ここは「経験」を積んでいく繰り返し学習の箇所で、新しく習ったことやすでに学んできたことを正確に再現して正しいやり方を心身に染みこませていきます。
 一つの「教えてもらいましょう」に新出事項は一つです。習ったことを一生懸命再現していけば自然に身につくように作られています。
 迷うところが出てくれば、それは実は歓迎すべき瞬間です。採点すると間違えた答えから迷いや考え違いが判明しますから、そこを再度説明することで記憶と理解の強化を図ることができるからです。
 『PERFECT』ではたし算のやり方を学習した後に引き算を習います。具体的には10からの繰り下がりを利用する「10-9」から習い始めますが、「引く9」の印象が強すぎるのかして「9」が出てくるとたし算であっても反射的に引いてしまう間違いが散見されるようになります。35に19を足すような問題で、10を足した後に9を引くのです。足すべき9を引いてしまうわけですから、正しい答えとの差は18になります。
 迷った上での18違いや考え違いの18違いは、説明すれば理解は一瞬で進みます。①足し算と引き算が逆の考え方であることを再説明し、②間違いを生徒の目前で再現した後に正しい方法を示し、③正しく生徒がそろばんを操作する様子を観察、という流れで指導が進みます。
 問題はこの後です。
 自席で取り組み出した生徒が、同様の場面に出くわしたとき、「さっき間違えたのと同じパターンだ」と考える瞬間があるか無いかという問題があるのです。
 立ち止まって考え「あっそうか」という瞬間を経験するか、同じパターンがあっても気がつかずに、または気をつけなければならないという意識すらあまり持たないまま間違いを繰り返してしまうかという違いです。
 間違えても良いのです。間違えないに越したことはありませんが、間違えても良いのです。理由がある間違いや間違いから学ぶことがあれば、それは伸びていくためのほんのちょっとの回り道にしか過ぎません。
 注意しなければならないのは適当に計算してしまう場合です。考えないまま計算して正解したとしても、それは偶然正解しただけであって理解につながっているわけではありません。むしろ“正解してしまったため”に本来きちんとつめて理解を進める必要がある機会を逃してしまうことだってあります。
 説明中適当に生徒の指が動こうとすると「ストップ。よく考えて。思い出して。さっきと同じパターンだ。思い出せなかったり考えてもわからなければ『思い出せません』とか『わかりません』と言おう。絶対に何も考えずに指を動かしたらいけません」というような内容を生徒の年齢や理解力、聞き取る力に応じて伝えます。
 意味や意識、意思を持たないままの行為・行動は、成功も失敗も偶然であって再現性や貴重な教訓・経験は残りません。1問には1問分の、10分の練習には10分の、1時間の練習では1時間分の経験を得なければなりません。環境や取り組む気持ち次第ではさらに多くの経験を得ることができるでしょう。
 意識をしない練習のもったいなさは段位練習のような高レベルになるとさらに顕著に表れてきます。
 高得点と低得点との差がとても大きい生徒や、同じパターンの間違いを繰り返す生徒は、なんとなく時間を計りなんとなく採点し、良かったら「うれしい」、悪かったら「悔しい」ということを繰り返しています。何に気をつけた結果良かったのか悪かったのかの振り返り、間違いの原因の探求、計時中やりづらかった問題や何度も計算を繰り返した問題に間違い直しの時間を利用して再度取り組む。これらは目標を明確にすることによって出てくる精神活動であり行動です。段位生への指導はこの点に尽きるといって過言ではありませんから、手を変え品を変え働きかけをおこないます。グランプリ大会の練習で間違えた問題ばかりを抽出して生徒毎にプリントを作成していたのはその一例です。
 そろばん教室では、勉強でも仕事でも成果を得るために必要な「主体的に取り組む」訓練を日常的に行っています。意識が不足している生徒にとっては、意識が出てきて自分自身でその成果を実感できるようになるためにはとてもつらくてしんどい場所であるかもしれません。「幼いからいいか」と見過ごされることはありません。幼いなら幼いなりに、できることややるべき課題はありますから、そこは心を鬼にして向き合うことにしています。
 試行錯誤という言葉があります。失敗を繰り返しながらも様々な方法で物事に挑み、成功に近づいていくというほどの意味ですが、これは目的意識を明確に持ったうえでやり方を工夫することが前提になっています。ただやみくもに適当に取り組んでもたとえ成功したところで、偶然の失敗に偶然の成功が紛れ込んだだけで、再現性もなければ実力にもなりません。
 初歩教材の話に戻します。
 教室では意識をしない間違いが続いてしまう場合、PERFECTの同じページを繰り返したり少しページを戻したりしながら生徒の様子を観察します。すると幾たびか繰り返すうちに少しずつ好転の兆しが見えてきます。
 繰り返すかページを戻すかは、生徒の意欲・能力・間違い方・理解度によってまちまちですが、そのまま無理矢理進めていくよりは結果的に早く上達するという見込みがある場合にこういう指導をおこないます。生徒にとっては一時的につらい時間を過ごすことになりますが、自立心を育てることが目的です。
 質問に答えてできない問題を教える方が手っ取り早く、生徒にとっても精神的に一時的に楽なのはわかっていますが、「あっそうか体験」が自発的なものによるほうが将来的にプラスなのは多くの生徒たちが実証してくれています。
 繰り返しになりますが、「あっそうか」体験は求めるものがある場合にのみ起きる体験です。道に迷ったり考え抜いたりといった精神作用がないと、腑に落ちたり納得することはありません。
 迷うことなく適当に取り組んでいる限り、できても実力にはならず、できなくても試行の価値すら見いだすことができません。ですから同じ問題を繰り返しおこなう意味は、適当に取り組むというマインドを、「どうして何度も繰り返さなければならないのか、いつになったらこのループから抜け出すことができるのか」というマインドに変化させる狙いがあります。正しかろうが間違っていようが、考えていることや実際の操作を意識的におこなうこと。これが「あっ、そうか」体験の前提となる必要条件なのです。
 さて、間違いを繰り返してしまう生徒には、①正しいやり方を再現する意識を持ち続けること ②迷ったら正しい方法を思い出そうと努力すること ③迷うことを自覚すること ④迷ったときに適当に処理をしないこと ⑤質問することを面倒くさがらないことの5つを毎日毎時間口を酸っぱくして繰り返し言い続けています。
 うまく伝えられないもどかしさを日々感じながら、どのように伝えるのが最も有効なのかを生徒毎に探り続けてきて、気がつくと今回塾報が300号を数えました。
 今まで幾度となく「あっそうか」の瞬間に立ち会ってきました。
 「あっそうか」は自分自身で気がつく瞬間です。たとえ教えられたものであったとしても、その瞬間はまるで自分が発見した真理や発明した技術に出くわした喜びがあります。
 この喜びは心の成長にとって最良の栄養素になると信じています。
 「待つ子育て」は、子どもたちが「あっそうか」をたくさん感じながらのびのびと成長する時間と空間を保障することで実現されます。

ACCESS{アクセス}

教室名 星の郷総合教室
所在地 〒576-0022
大阪府交野市藤が尾4-6-10
電車の場合 JR片町線星田駅、または、京阪電車河内森駅から徒歩15分
自動車の場合 第二京阪道路交野南インターチェンジから5分、交野北インターチェンジから10分
国道168号線西川原交差点を西に入り、1分