塾長ブログ

2025.11.09

発言(塾報10月号より)

  説明した内容を生徒の皆さんがどれほど理解しているかを確認するにあたって最も確実なのは、生徒の返事です。完全に理解したときは力強く短い返事があり、自信がないときやわからなかったときは返事までに時間がかかったり声が弱々しかったり、時には全く声が出ないこともあります。
 どちらにしても反応がありますから、すぐに次の対応につなげることができますが、恥ずかしかったりどう答えて良いかわからないときは返事がなかなか出てきません。
 このように、音声による発言は、その有無や程度によって状況を把握しやすいものですが、感情豊かな動物である人間には、声にはならないまでも次のような立派な“発言"があります。
◎点数発言 状況が点数にあらわれる
◎答案発言 状況が答案にあらわれる
◎表情発言 状況が表情にあらわれる
◎動作発言 状況が動作にあらわれる
◎座席発言 状況が座席にあらわれる
 一つずつ簡単に説明します。
◎人間は感情の生き物ですから、同じ練習問題に取り組んでいても、日によって、あるいは時間によって点数は大きく変動します。とくに技術的にも精神的にも不安定な発達途上にある場合、集中力の強弱がストレートに点数に表れます。
◎答案には、間違いの種類だけでなく、問題に取り組んでいたときの精神状況が如実にあらわれています。数字の丁寧さ、訂正の頻度、訂正の仕方を守る意識、問題用紙の傷み具合などから明らかになります。毎日毎時間、初歩教材はもちろんのこと、全員に答案の提出を義務づけて全枚数をチェックしているのは答案発言を確認することも目的になっています。
◎子どもたちは実に表情豊かです。自信があるときは視線をそらすことはありません。目の中には確固とした意思が宿っています。逆に、視線をそらしたり表情がこわばることで、言葉以上に感情を訴えてくることもあります。
◎答を写したり、「やめ」の合図の後に答えを書いたりしている生徒は、ほぼ百%と断言してもいいほど、私と視線が合います。よからぬことをしている生徒の視線は問題に向かず、スタッフがどこにいるかをそれこそ全身で感じ取ろうとしています。バレていないと思っている姿はなんとも滑稽で、ひときわ目立っているものです。わざわざ遠回りをして採点の列に並んだり、何かを落としてゆっくり拾ってみたり、特に用もないのにトイレにこもってみたりと、動作からたくさん読み取ることができます。
◎前から詰めて座るように、隣に必ず他の生徒がいる席に座るように義務づけていますが、それでもなお後ろのほうに座る生徒がいます。目が届かないと思っているのかもしれませんが、逆にとても目立ちますので私の視線はそちらに集中します。
 私たちの仕事は、そろばんを使った計算技術の方法を伝え、珠算式暗算力を鍛え、技術を習得していくなかで生徒の皆さんが伸び方を習得し、あらゆる能力を高める過程に寄り添うことですが、そのために必要な基本的で最も重要な要素は観察と想像・創造だと思っています。
 生徒の様々な発言を観察した結果から状況を想像し、個々に応じた教材や指導を創造する日々は驚きと発見の連続で、おちおち老け込んでいる間がないのはありがたいことです。

2025.11.09

自己効力感(塾報9月号より)

 ◎そろばんの練習は、突き詰めていえば珠を決まりに従って正しく速く弾く練習です。
 また、架空のそろばんをあたかも実物のそろばんを弾くようにして想像するのが珠算式暗算で、練習を重ねていくうちに、頭の中のそろばんの桁幅は増え、正確性も高まります。
 さらに、上達するにつれて架空のそろばんを弾く指先の微妙な動きすら不要になります。そうすると答えを書いている間に次の問題も珠算式暗算で計算することができるようになってきます。想像を超える速さで計算する有段者の暗算力は、このように頭の中で自由にそろばんの珠を想像できることによって成り立っています。
 そろばんの練習は、脳に直接良い影響を与えるだけでなく、精神面の強化にもつながっていきます。必要のない珠に触れることなく、いかにリズミカルに最小限で指先を動かすのかを突き詰める作業は、高度な集中力と忍耐力を育みます。
 いい加減な気持ちで練習に取り組むと、できていたことができなくなり、点数は大幅に下がります。力を取り戻すまでに本来なら必要でなかったはずの時間と労力を費やしてしまうことを知ります。無駄なことをしてしまったという後悔が残ると、せめてもの救いになるでしょうか。
 このように、真剣に取り組んだからこそ感じることのできるうれしさや悔しさ、楽しみや悲しみをめまぐるしく日常的に経験し、おだてられることと褒められることの違いを知り、精神的なたくましさを身につけて生徒たちは成長していきます。
◎自己肯定感と自己効力感という二つの概念があります。
 できてもできなくてもありのままの自分を認める「自己肯定感」と、実際に取り組んだ経験から得られた充足感や満足感からつむぎ出される「がんばったらできそう・やれそう・うまくいきそう」という「自己効力感」。この二つの概念は似ているようで少し違います。
  国際比較などでニュースになることもある「自己肯定感」に比べて、「自己効力感」はあまりなじみのない言葉ですが、自己効力感が高いと次のような利点があるといわれています。
①チャレンジ精神の向上:困難な課題や未経験の業務にも積極的に取り組むことができる。
②打たれ強さ:失敗や挫折をしても、すぐに立ち直り、前向きに次にどうすれば成功するかを考えることができる。
③モチベーションの維持:自分の能力を向上させる目標を高く掲げ、モチベーションを維持することができる。
 自己効力感を高めるために有効だといわれている主な方法は以下の通りです。
①成功体験を積む:目標を達成した経験を積み重ねることで、「自分ならできる」という自信が強まる。特に、時間や労力をかけて達成した経験は、自己効力感の向上に大きく貢献する。
②他者に学ぶ:他者が目標を達成する様子を観察し、「自分にもできそうだ」と感じることで、自己効力感が高まる。身近な人の成功体験から学ぶことが効果的。
③言葉がけ:他者から「あなたにはできる」といったポジティブな言葉をかけられたり、自分自身に「できる」と言い聞かせたりすることで、自己効力感が高まる。
④健全な心身を保つ:心身ともに健康な状態を保ち、ポジティブな感情(ワクワク感など)を経験することで、行動への意欲が高まり、自己効力感につながる。
 インターネットで調べて得られた定説と言われている情報をいくつか書き並べました。
 これらの概念は心理学や教育界で学問として成り立っていますからまだまだ奥が深く幅も広いものだと思いますが、全く学問的ではなくとも我々が通ってきた道から自己効力感の効果や効力感を高める方法は体験的に知っている部分が多くあるのではないでしょうか。
 子育てをはじめとする教育のあらゆる人為的な取り組みは、意識する・しないに関係なく、すべからく『自己効力感の強化』を目指して行われています。
 そろばん学習においても無論例外はなく、教室内外、関わりのあるとき・ところすべてで自己効力感を高める意識をもって生徒たちに接しています。
 習い事としての歴史が長いそろばん学習では、検定試験や競技会など、自己肯定感や自己効力感を高める「制度的な保障」が生徒の年齢・技術到達レベルに応じて豊富に準備されています。また日常の練習においても教室では多くのスモールステップを準備してきており、今現在においても新たなステップを次々と追加しています。
 毎時間、全員の得点を記録し、全員の答案に目を通すのは、生徒の皆さんの自己効力感を高める材料探しをしていることも目的になっています。
 生徒の皆さんは日々目の前の課題に真剣に取り組んで、『人格形成の栄養素』をたくさん蓄えていってください。

2025.06.25

あっそうか体験(塾報6月号より)

 何かを身につけるためには知識と経験が不可欠です。

 知識は本を読んだりネットで検索したり、誰かから教えられて得られます。
 経験は自分自身で訓練や練習を積み重ねることで得られます。
 どちらかが欠けていては何も身につけることはできません。フィギュアスケートの4回転ジャンプとは跳び上がって着氷をするまでに4回転することという知識はあってもただ知っているというだけで実際にできるはずもなく、4回転ジャンプがどういうものか何もわからないまま4回転の練習ができるわけもありません。
 そろばん学習で説明してみましょう。
 習い始めてすぐに取り組む初歩教材『PERFECT』では、「教えてもらいましょう」と記載されているところがいくつも出てきます。この記載は新出事項や注意すべき箇所にあり、「正しい知識」を習得すべき事柄を表しています。生徒の皆さんはここで正しいやり方を学びます。
 続いて指示が書かれていない問題に取り組みます。
 ここは「経験」を積んでいく繰り返し学習の箇所で、新しく習ったことやすでに学んできたことを正確に再現して正しいやり方を心身に染みこませていきます。
 一つの「教えてもらいましょう」に新出事項は一つです。習ったことを一生懸命再現していけば自然に身につくように作られています。
 迷うところが出てくれば、それは実は歓迎すべき瞬間です。採点すると間違えた答えから迷いや考え違いが判明しますから、そこを再度説明することで記憶と理解の強化を図ることができるからです。
 『PERFECT』ではたし算のやり方を学習した後に引き算を習います。具体的には10からの繰り下がりを利用する「10-9」から習い始めますが、「引く9」の印象が強すぎるのかして「9」が出てくるとたし算であっても反射的に引いてしまう間違いが散見されるようになります。35に19を足すような問題で、10を足した後に9を引くのです。足すべき9を引いてしまうわけですから、正しい答えとの差は18になります。
 迷った上での18違いや考え違いの18違いは、説明すれば理解は一瞬で進みます。①足し算と引き算が逆の考え方であることを再説明し、②間違いを生徒の目前で再現した後に正しい方法を示し、③正しく生徒がそろばんを操作する様子を観察、という流れで指導が進みます。
 問題はこの後です。
 自席で取り組み出した生徒が、同様の場面に出くわしたとき、「さっき間違えたのと同じパターンだ」と考える瞬間があるか無いかという問題があるのです。
 立ち止まって考え「あっそうか」という瞬間を経験するか、同じパターンがあっても気がつかずに、または気をつけなければならないという意識すらあまり持たないまま間違いを繰り返してしまうかという違いです。
 間違えても良いのです。間違えないに越したことはありませんが、間違えても良いのです。理由がある間違いや間違いから学ぶことがあれば、それは伸びていくためのほんのちょっとの回り道にしか過ぎません。
 注意しなければならないのは適当に計算してしまう場合です。考えないまま計算して正解したとしても、それは偶然正解しただけであって理解につながっているわけではありません。むしろ“正解してしまったため”に本来きちんとつめて理解を進める必要がある機会を逃してしまうことだってあります。
 説明中適当に生徒の指が動こうとすると「ストップ。よく考えて。思い出して。さっきと同じパターンだ。思い出せなかったり考えてもわからなければ『思い出せません』とか『わかりません』と言おう。絶対に何も考えずに指を動かしたらいけません」というような内容を生徒の年齢や理解力、聞き取る力に応じて伝えます。
 意味や意識、意思を持たないままの行為・行動は、成功も失敗も偶然であって再現性や貴重な教訓・経験は残りません。1問には1問分の、10分の練習には10分の、1時間の練習では1時間分の経験を得なければなりません。環境や取り組む気持ち次第ではさらに多くの経験を得ることができるでしょう。
 意識をしない練習のもったいなさは段位練習のような高レベルになるとさらに顕著に表れてきます。
 高得点と低得点との差がとても大きい生徒や、同じパターンの間違いを繰り返す生徒は、なんとなく時間を計りなんとなく採点し、良かったら「うれしい」、悪かったら「悔しい」ということを繰り返しています。何に気をつけた結果良かったのか悪かったのかの振り返り、間違いの原因の探求、計時中やりづらかった問題や何度も計算を繰り返した問題に間違い直しの時間を利用して再度取り組む。これらは目標を明確にすることによって出てくる精神活動であり行動です。段位生への指導はこの点に尽きるといって過言ではありませんから、手を変え品を変え働きかけをおこないます。グランプリ大会の練習で間違えた問題ばかりを抽出して生徒毎にプリントを作成していたのはその一例です。
 そろばん教室では、勉強でも仕事でも成果を得るために必要な「主体的に取り組む」訓練を日常的に行っています。意識が不足している生徒にとっては、意識が出てきて自分自身でその成果を実感できるようになるためにはとてもつらくてしんどい場所であるかもしれません。「幼いからいいか」と見過ごされることはありません。幼いなら幼いなりに、できることややるべき課題はありますから、そこは心を鬼にして向き合うことにしています。
 試行錯誤という言葉があります。失敗を繰り返しながらも様々な方法で物事に挑み、成功に近づいていくというほどの意味ですが、これは目的意識を明確に持ったうえでやり方を工夫することが前提になっています。ただやみくもに適当に取り組んでもたとえ成功したところで、偶然の失敗に偶然の成功が紛れ込んだだけで、再現性もなければ実力にもなりません。
 初歩教材の話に戻します。
 教室では意識をしない間違いが続いてしまう場合、PERFECTの同じページを繰り返したり少しページを戻したりしながら生徒の様子を観察します。すると幾たびか繰り返すうちに少しずつ好転の兆しが見えてきます。
 繰り返すかページを戻すかは、生徒の意欲・能力・間違い方・理解度によってまちまちですが、そのまま無理矢理進めていくよりは結果的に早く上達するという見込みがある場合にこういう指導をおこないます。生徒にとっては一時的につらい時間を過ごすことになりますが、自立心を育てることが目的です。
 質問に答えてできない問題を教える方が手っ取り早く、生徒にとっても精神的に一時的に楽なのはわかっていますが、「あっそうか体験」が自発的なものによるほうが将来的にプラスなのは多くの生徒たちが実証してくれています。
 繰り返しになりますが、「あっそうか」体験は求めるものがある場合にのみ起きる体験です。道に迷ったり考え抜いたりといった精神作用がないと、腑に落ちたり納得することはありません。
 迷うことなく適当に取り組んでいる限り、できても実力にはならず、できなくても試行の価値すら見いだすことができません。ですから同じ問題を繰り返しおこなう意味は、適当に取り組むというマインドを、「どうして何度も繰り返さなければならないのか、いつになったらこのループから抜け出すことができるのか」というマインドに変化させる狙いがあります。正しかろうが間違っていようが、考えていることや実際の操作を意識的におこなうこと。これが「あっ、そうか」体験の前提となる必要条件なのです。
 さて、間違いを繰り返してしまう生徒には、①正しいやり方を再現する意識を持ち続けること ②迷ったら正しい方法を思い出そうと努力すること ③迷うことを自覚すること ④迷ったときに適当に処理をしないこと ⑤質問することを面倒くさがらないことの5つを毎日毎時間口を酸っぱくして繰り返し言い続けています。
 うまく伝えられないもどかしさを日々感じながら、どのように伝えるのが最も有効なのかを生徒毎に探り続けてきて、気がつくと今回塾報が300号を数えました。
 今まで幾度となく「あっそうか」の瞬間に立ち会ってきました。
 「あっそうか」は自分自身で気がつく瞬間です。たとえ教えられたものであったとしても、その瞬間はまるで自分が発見した真理や発明した技術に出くわした喜びがあります。
 この喜びは心の成長にとって最良の栄養素になると信じています。
 「待つ子育て」は、子どもたちが「あっそうか」をたくさん感じながらのびのびと成長する時間と空間を保障することで実現されます。

2025.05.23

大会と検定(塾報5月号より)

 5月5日にマイドームおおさかにおいて開催された全日本ユース大会。459名の選手によって熱戦が繰り広げられました。全日本ユースは高校1年生以下の全国大会で、問題レベルが高く、出場するだけでも大変な大会ですが、当教室からは19名が参加し、それぞれが大会を通じて大きく成長しました。当日の模様は、6月中によみうりテレビ夕刻のニュース番組「かんさい情報ネットten.」において放送されることになっています。
 検定試験だと合格だったか否か、大会では何点取ったか、何位に入ったか、という視点だけで評価してしまいがちになりますが、それはあくまでも一面に過ぎない見方です。出場の申込をしてから大会までの取り組みや、大会当日の朝からの身の処し方、心の持ち方、本番で感じたこと等々、一つの大会や検定を通じて得られるものはたくさんあるからです
 大会・検定は、上手な人のためだけにあるのではありません。上手な人が出たり受けたりするのではなく、そこに身を置く決心をした人がうまくなる場、それが大会であり検定です。
 ただ、昨日今日運転免許を取った人がいきなりサーキット場を走るのは危険なように、検定や大会が現時点での実力にふさわしい場かどうかの判断は必要です。幸いにして長い歴史を持つ習い事としてのそろばんには、先人が様々な場を築いてくださっているだけでなく、現代の珠算学習にあった検定や大会も新しく考案・実施されています。実力に応じてご案内していきますので積極的に参加しましょう。

2025.03.25

みらい検定(塾報3月号より)

 珠算・暗算能力到達度検定(みらい検定)は、暗算力の強化と珠算能力検定(日本商工会議所1~3級検定)の早期合格を目指して考案された検定で、2023年8月に始まりました。そろばん・暗算ともに年3回検定が実施されています。
 星の郷教室では、暗算検定は95%の生徒がみらい検定に移行し、珠算検定は4級までは100%がみらい検定、1級~3級は①みらい検定と能力検定を併用 ②みらい検定のみ ③能力検定のみ の3つのパターンが混在しています。
 試験の日程と実力の伸び、生徒本人の希望、適性などを考慮してそれぞれの試験の申込書を配布しています。
 試験に向けての練習では、合格を目指して作戦を立案し、実行と修正を繰り返しながらいろいろな経験を積んでいきます。
 どのように取り組めば上手くいくのか。集中力が欠けた状態で臨めばどんな結果になるのか。
 わかっていることやできていることをきちんと結果につなげるには、確固とした精神力が必要です。
 正しいことを正しくやり続ける力を養うために、検定試験はかなり有効な制度だと考えています。

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所在地 〒576-0022
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